2016(H28)年度終了企画展示
2017/02/05
幕末の福井を描いた作家たち展
その作品を紹介します。橋本左内や坂本龍馬の書簡など歴史資料や、作家の自筆原稿などを展示しています。歴史と文学をあわせてお楽しみください。
期間:1月28日(土)~4月9日(日)
主な展示資料:
吉村昭「天狗争乱」原稿・愛用品、有明夏夫直木賞正賞の時計・執筆資料・愛用品、大島昌宏「そろばん武士道」原稿など
関連イベント:時代小説キネマ
2月11日(土・祝)、26日(日)、3月12日(日)、26日(日) 各日13:30~ 幕末の福井を描いた作家たち展チラシ.pdf
展示内容と構成
有明夏夫は、戦時中に福井県に疎開し、高校までを過ごしました。1972年「FL無宿のテーマ」でデビューし、その後はじめて手掛けた歴史小説が「夜明け(ダイブレーキ)」で、幕末の大野藩の洋学振興の歴史を描きました。これをきっかけに有明は時代小説を多く書くようになり、1979年に『大浪花諸人往来』で直木賞を受賞しています。
福井市出身の大島昌宏は、幕末期の歴史小説を多く発表しました。福井ゆかりの作品では、大野藩の財政建て直しに尽力した内山良休(七郎右衛門)を描いた『そろばん武士道』、福井藩や明治新政府で財政を担当し、東京府知事としても活躍した福井藩士由利公正を描いた『炎の如く』があります。大島昌宏は、それまであまり知られていない人物にも注目し、福井の情景や風物を織り交ぜながら、歴史小説に仕立てました。
司馬遼太郎は代表作『竜馬がゆく』の中で、坂本龍馬が由利公正や松平春嶽に会うため福井に来る場面を描いています。また、徳川慶喜を描いた小説『最後の将軍』には松平春嶽も多く登場します。そして、由利公正と新選組副隊長の山崎烝が登場する「法駕籠のご寮人(りょん)さん」(『大坂侍』所収)というユニークな小説も執筆しています。司馬遼太郎は、歴史上の人物を俯瞰し、広い視野から歴史の流れをダイナミックに描きました。
山本周五郎は、橋本左内が登場する小説を三作遺しています。「橋本左内」、「城中の霜」、『天地静大』です。このうち「城中の霜」は、処刑の直前に涙を流した左内が描かれています。山本周五郎は、いつ何をしたかということよりも、どういう思いをしたか、そこでどうしようとしたかを書くのが小説であると考え、庶民がひたむきに粘り強く生きる姿を描きました。
また、今年は山本周五郎の没後50年にあたります。今庄が主な舞台となっている『虚空遍歴』の原稿や、使用していた万年筆などの愛用品もあわせて展示しています。
吉村昭は、最も人気のある歴史小説家の一人で、幕末の福井を描いた作品も少なくありません。天然痘から人々を救うため奮闘する福井藩医笠原白翁を描いた『めっちゃ医者伝』と『雪の花』、水戸浪士の敦賀での最期を描いた「動く牙」と『天狗争乱』などがあります。吉村は、「史実はドラマ、史実こそがドラマ」と語り、綿密な調査により史実に忠実に書くというスタイルで歴史小説を執筆しました。会場には、吉村の小説が原作の映画「桜田門外ノ変」で使われた大砲(レプリカ)や人相書きなども展示しており、作品の雰囲気を感じていただけます。
作家の原稿など文学資料のほか、松平春嶽や由利公正、橋本左内の自筆資料、坂本龍馬書状(複製)などの歴史資料も展示しています。激動の幕末の時代に福井人がどんな活躍をしたか、小説をとおして読み取っていただければ幸いです。
2016/10/21
中野重治 ふる里への思い、そして闘い
期間:10月15日(土)~12月18日(日) 終了しました
主な展示資料:
中野重治自画像、原まさの宛て中野重治獄中書簡、中野重治「梨の花」原稿 中野重治日記(初公開資料含む)、中野鈴子遺言
関連イベント:
10月15日(土)10:30~12:00 第8回文学カフェ 林淑美氏 「中野重治 肉筆原稿と書簡」
10月23日(日)、11月6日(日)、20日(日)、12月4日(日) 各日13:30~ 昭和文学キネマ ~戦争とプロレタリアの文学~
展示内容と構成
第一章 中野重治と故郷
1902年、中野重治は福井県坂井郡高椋村(現、坂井市丸岡町)に生まれ、祖父母と農村で暮らす中で、言葉や考え方を学び、美意識を育みました。福井中学校を卒業した後は、金沢の第四高等学校に進学、ふる里を離れることになりました。
中野重治は「ふる里」について「そこから離れたもの、離れて時のたつたもの、そういう人間には何となくふる里が美しいものに見える。なつかしいものに思いかえされる」と述べています。
また、「私は私を生み育てた郷土に対して感謝の思いを持つ、それを書きあらわすことは文芸に従うものの一種の内面的義務にもなる」と、生涯にわたりふる里を思い、書き続けました。ふる里を描いた作品は、小説「梨の花」や随筆「私の故郷」など、約120作品にものぼります。
本章では、幼少期、金沢での四高時代を描いた小説、故郷について記した随筆、福井中学校時代など同郷の友人たちとの交流を通して、中野重治の思想形成の原点とも言える故郷の生活や思いを紹介します。
第二章 文学者中野重治の軌跡
中野重治は、1924年、東京帝国大学に進学、その後、『戦旗』の創刊・編集に携わるなどプロレタリア文学の新時代を担いました。1932年、治安維持法違反で検挙され、共産主義運動を捨てることを約束し、約2年後に釈放されます。言論統制の厳しい社会情勢の中でも書き続けることを決意し、権力の厳重な監視下で、ふる里の父親とのやりとりを描いた「村の家」などの転向五部作や『斎藤茂吉ノオト』、森鷗外論などを執筆しました。
終戦後は新日本文学会の創立メンバーとして活躍、「文学者の国民としての立場」など社会批評を次々と発表しました。福井地震発生時には、日本共産党国会議員団を代表して福井に駆け付けています。その後も、政治と文学の問題を生涯にわたり追究し続け、1969年に小説『甲乙丙丁』で野間文芸賞を、また小説、詩、評論など多年にわたる文学上の業績で1977年度朝日賞など数々の賞を受賞しました。
中野重治は「なつかしさ限りない」ふる里を離れて文学者としての多くの仕事を成し遂げ、1979年8月24日、77年の生涯を閉じました。今は先祖とともに坂井市丸岡町の中野家の墓地、太閤ざんまいに眠っています。
本章では、戦争や震災など激動する社会の中で、家族や友人たちとともに歩んだ文学者としての生き方を紹介します。
2016/10/21
文学からくり箱展~ムットーニの世界~
本展覧会では、文学をモチーフにした作品を中心に9点の<ムットーニ>を一堂に展示し、皆さまを幻想的な文学の世界にご案内いたします。
期間: 10月15日(土)~12月18日(日) 終了しました
関連イベント:
ムットーニ上演会
10月15日(土)、11月12日(土)、12月18日(日)
各日ともに14:00~15:00、16:00~17:00
展示内容
「猫町」(1994年、世田谷文学館蔵) 原作:萩原朔太郎
「月世界探険記」(1995年、世田谷文学館蔵) 原作:海野十三
「山月記」(1995年、世田谷文学館蔵) 原作:中島敦
「スピリットオブソング」(2006年、世田谷文学館蔵) 原作:宮沢和史
「漂流者」(2007年、世田谷文学館蔵) 原作:夏目漱石
「眠り」(2007年、世田谷文学館蔵) 原作:村上春樹
「アローン・ランデブー」(2007年、世田谷文学館蔵) 原作:レイ・ブラッドベリ
「テンペスタ」(2012年、作家蔵) 原作:ジョルジョーニ
「おそろしいものが」(2014年、当館蔵) 原作:高見順
「インターバルクロック」(2016年、作家蔵)
2016/08/03
日本ミステリー文学展~藤田宜永からの招待状~
福井県出身の直木賞作家・藤田宜永は、時代の変化と共に現れる様々な社会問題を、私立探偵の目を通し描き出すハードボイルド作品を多く著し、新たなミステリー文学の境地を開拓し続けています。また東尋坊や越前海岸、八百比丘尼伝説など福井県にある独特の風土や歴史は、多くのミステリー作品の舞台や題材として描かれており、福井県の文学を語るとき、これらのミステリー文学を欠かすことはできないと言えるでしょう。
本展覧会では、ミステリー作家・藤田宜永の作品世界を中心に福井ゆかりのミステリー作品を紹介するとともに、日本ミステリー文学の歴史とその魅力に迫ります。
期間:7月16日(土)~9月11日(日) 終了しました
主な展示資料:
江戸川乱歩筆色紙、文芸誌『新青年』
横溝正史角川文庫版シリーズと杉本一文作表紙リトグラフ
藤田宜永「探偵・竹花 女神」校正原稿、愛用品(サングラスなど)
関連イベント:
藤田宜永講演会8月6日(土)
ミステリー文学キネマ(7/24日、7/31日、8/11木・祝、8/28日、9/10土)
謎解きゲーム(随時受付)
展示内容と構成
福井県出身の直木賞作家・藤田宜永は、時代の変化と共に現れる様々な社会問題を、私立探偵の目を通し描き出すハードボイルド作品を多く著し、新たなミステリー文学の境地を開拓し続けています。また東尋坊や越前海岸、八百比丘尼伝説など福井県にある独特の風土や歴史は、多くのミステリー作品の舞台や題材として描かれており、福井年の文学を語るとき、これらのミステリー文学を欠かすことは出来ないと言えるでしょう。
本展覧会では、ミステリー作家・藤田宜永の作品世界を中心に福井ゆかりのミステリー作品を紹介するとともに、日本ミステリー文学の歴史とその魅力に迫ります。
第一章 日本ミステリー文学の歴史
黒岩涙香、江戸川乱歩、横溝正史、松本清張など、明治から始まる日本ミステリーの流れと発展、その中で活躍した日本を代表するミステリー作家たちの業績を、自筆原稿や書簡、当時刊行された図書とともに紹介します。
第二章 福井のミステリー文学
二章では、水上勉、有明夏夫、桂美人など、福井ゆかりのミステリー作家と、福井を舞台にしたミステリー作品を、執筆にまつわる思い出や取材などについて語った自作解説原稿や、作品の舞台となった福井県内の場所・地域が一目で分かる巨大地図などで紹介します。
第三章 ハードボイルド作家・藤田宜永の世界
第三章では、福井県出身のハードボイルド作家・藤田宜永のこれまでの歩みとその作品世界を、作者所蔵の自筆校正原稿や執筆資料、書斎再現コーナーやインタビュー映像などで紹介します。
2016/04/24
新収蔵品展
今年は小浜市出身の詩人、児童文学者として活躍した山本和夫の没後20年を機に、
山本和夫の直筆資料や愛用品のほか、水上勉の本の挿画を多く手がけた司修氏の
挿絵などを展示します。
期間:4月23日(土)~6月26日(日) 終了しました
主な展示資料:
山本和夫自画像、愛用品、司修「父と子」(水上勉原作)挿画
三好達治「岸田國士弔辞」原稿、志田弥広「炎の如く」(大島昌宏原作)挿画
関連イベント:
講演会「水上勉さんとの楽しい思い出」
キッズ文学シネマ「セロひきのゴーシュ」など
文学カフェ「シリーズ作家を語る 山本和夫」
展示内容と構成
福井県ふるさと文学館は昨年2月に開館し、早一周年を迎えましたが、これまで多くの方々から福井ゆかりの作家を知ることができる貴重な原稿や作品等をご寄贈いただきました。このたび、これらの資料をはじめ、開館後に新たに収蔵した主なコレクションを初公開します。
今年が没後20年となる小浜市出身の詩人、児童文学者山本和夫に関する資料や、おおい町出身の直木賞作家水上勉の本の挿画を多く手がけた司修氏の原画、福井の自然や歴史を題材にした小説を多く執筆した福井市出身の作家大島昌弘の草稿などを展示します。
第一章 没後20年 山本和夫のまなざし
山本和夫は1907年4月25日、遠敷郡松永村(現・小浜市)に生まれ、福井県立小浜中学校(現・若狭高校)を卒業後、東洋大学倫理学東洋文学科に進学しました。山本は大学在学中に本格的に詩作を始め、1929年、第一詩集『仙人と人間との間』を刊行。戦中は従軍しながらも詩や児童文学を執筆しました。戦後は子供たちに平和の尊さを呼びかけ、童話や偉人の伝記を多く執筆するとともに、ふるさとを舞台にした詩や児童文学、校歌、唱歌の作詞なども多く手がけました。
山本の父親は教師で、戦後は村長を務めており、山本は父親を通し学校や村を家族のように感じるようになったといいます。ふるさとを描いた文学には、山や川、生き物たちに向けられた家族を見守るような深く温かいまなざしを感じることができます。
第二章 北陸生活文化協会
1946年2月、福井県在住の文人たちを中心に北陸生活文化協会が結成されました。理事には山本和夫、多田裕計、三好達治、伊藤柏翠などの文学者のほか、雨田光平(彫刻家)や鈴木千久馬(洋画家)、県内新聞各紙の代表者、医師の堂森芳夫や福井市長の熊谷太三郎など多くの文化人が名を連ねていました。
また、同年5月には、多田裕計や山本和夫が編集委員を務めた文芸雑誌『北陸生活』が創刊され、山本和夫は戯曲「開墾農場」を、三好達治、多田裕計、伊藤柏翠も随筆を発表しました。北陸生活文化協会は各地域の様々な文化サークルを結び付ける役割を担い、戦後の県内文化活動の高まりを支えました。
第三章 大島昌宏
1934年、福井市に生まれた大島昌宏は中学校時代に福井大震災を経験しました。福井県立藤島高等学校に進学、日本大学芸術学部卒業後は、東京の広告制作会社に勤務しながら、心に強く残っている福井大震災の思い出を描くため、鮎釣り漁師を目指す女性を主人公とした『九頭竜川』を執筆し、これが1992年、新田次郎文学賞を受賞します。翌年、59歳で作家として生きていくことを決意し、広告会社を退社、文筆活動に専念すると、1994年『罪なくして斬らる』で中山義秀文学賞を受賞。1996年には、刀をそろばんに持ち替え大野藩の財政を建て直す内山良休を主人公とした『そろばん武士道』を刊行、並行して由利公正を主人公にした『炎の如く』に取り組むなど福井ゆかりの歴史上の人物に光をあてました。しかし、1999年、本格歴史小説の騎手として嘱望される中、病気でこの世を去りました。作家として活躍したのは短い期間でしたが、福井の自然や歴史を描いた多くの優れた小説を遺しました。
第四章 司修と水上勉作品
司修と水上勉の交流は『比良の満月』(1965年)の装幀が始まりでした。その後、『寺泊』(1977年)の装幀、『停車場有情』(1980年)の装幀・挿画、『朝日新聞』に連載された「父と子」の挿画を次々と描き、水上文学の世界を彩りました。
『停車場有情』の挿画の制作にあたって、水上の文章に触発された司修は小浜線の鈍行列車を次々と駅を乗り継ぎ、若狭の風景をスケッチし、作品を仕上げました。
水上勉もまた、敬愛する司修のスケッチを目にし、「どこの停車場がこの眼で見る最後の駅であるかしらないが、帰る駅は九歳で出たあの若狭本郷駅だろうか」と、人生の終着を故郷若狭の駅にたとえ、故郷に思いを馳せています。
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