越前奇談怪談集(7)月代の皮
マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳
福井城の鳩の門内の隅、現在は杉田小平次の屋敷となっている辺りは、昔は柴田氏の北庄城の本丸だった場所という。それゆえ、屋敷には勝家を祭った小さな祠がある。
この家は昔から、さまざまな怪しいことが起きていた。渥美新右衛門拙斎がこの家に住んでいた時のこと。元旦に縁側を見ると、毛が伸びた月代の皮膚をそのまま剥ぎ取ったものがそこにあった。あまりに気味悪いので、正月から縁起が悪いと思っていると、屋敷に出入りする者が来てこれを見るなり、「これはなるほど、人の”御頭”でございます(人の上に立つ意味の「おかしら」とかけている)。瑞相、めでたきことでございます」と祝ってくれた。するとその年、渥美は町奉行に昇進したのである。
この家は昔から、さまざまな怪しいことが起きていた。渥美新右衛門拙斎がこの家に住んでいた時のこと。元旦に縁側を見ると、毛が伸びた月代の皮膚をそのまま剥ぎ取ったものがそこにあった。あまりに気味悪いので、正月から縁起が悪いと思っていると、屋敷に出入りする者が来てこれを見るなり、「これはなるほど、人の”御頭”でございます(人の上に立つ意味の「おかしら」とかけている)。瑞相、めでたきことでございます」と祝ってくれた。するとその年、渥美は町奉行に昇進したのである。
資料原本と翻刻文
一 鳩の御門内すみ、今杉田小平次か屋敷ハ、いにしへ此辺ハ柴田氏の本丸にて有しとそ、則勝家を祭りたる少きほこら有也、此家ハ昔より様々あやしき事有、渥美新右衛門拙斎の住ける時、元朝に椽先を見しに、人の月代の毛延たるを、皮なからむきたるか有けり、余りいぶせき物故、忌々敷事におもひしに、出入の者来りて是を見、是ハいかさま人の御頭に御成候、瑞相目出度御事也と祝ひ申けるか、其年町奉行に成けると也