越前奇談怪談集(9)漆ヶ淵の龍

マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳

画像:漆ヶ淵の龍
  漆ヶ淵(福井市下市)は、白鬼女川(日野川)が南から北に流れ、足羽川が東から流れて合流する所にある淵である。上流の川筋には小渡、下流には大渡がある。水の深さは約六・六メートル、合流地点の川幅は約四〇メートルある。
 「影響録」という書物に載る話。むかし、この淵の上に大きな漆の木があった。近くの村の者たちは川を泳いで、漆の実を取りにきて売っていた。ところが、安居村(福井市東安居・西安居地区)のある商人が、大きな龍の頭をこしらえて川の水に浸して置いたところ、見た人はこれを恐れて、近寄る者がいなくなった。その商人はよろこんで、日暮れに漆ヶ淵に泳いで行ったところ、自分が作った龍に呑みこまれたのだとか。

資料原本と翻刻文

原本画像を見る➤A0143-21215-008 「越前国古今名蹟考 巻之六 足羽郡下」(松平文庫、当館保管)ウェブ公開画像なし

画像:漆ヶ淵の龍
● 漆ヶ淵 〇白鬼女川、南より北へ流れ、足羽川、東より流て落合所に淵あり、淵より上白鬼女の水筋に小渡、淵より下に大渡あり
〇 漆ヶ淵、水二丈二尺、二口ノ所、川幅二十二間 絵図記
〇 影響録ニ云、昔漆ヶ淵の上に大なる漆木あり、近郷の者川を游き、実を取て売けり、然るに安居村の内の商人、大なる龍の頭を拵へ、川水に浸し置けれハ、見る人是を恐れて其辺によるものなし、彼商人悦て日暮、其淵へ泳き行しに、我作りたる龍に呑れけるとかや