越前奇談怪談集(20)イッパクの霊
マット・マイヤー氏のイラストと現代語訳
「大名政府」
(中略) 福井城西北隅にある隅櫓は、苔むして、草が生い茂り、常に閉ざされていて、イッパクの霊が潜んでいる場所とされていた。そして、誰もこの中に入ってはいけないと言われていた。
数年前、藩主の子(松平楷五郎ヵ)が、強くて勇ましい藩士をそこに送り込んで、この陰気な場所を夜の間監視させたという。長い間待っていると、真夜中に美しい女性がこの隅櫓から出てきて、湿って生い茂った城壁に向かった。この時、彼女は「自分はイッパクの霊である」と言い、「もし、自分を見たことを誰かに話したら、お前はすぐに死ぬだろう」と言った。そして、その藩士は、彼女の背中が醜いぬめりのある怪物のものであることを知ることになる。
翌朝、藩士は勇猛果敢に自分の体験を主人に報告した。しかし、その数週間後に彼は死んでしまった。人びとや子どもたちは、彼の死は霊の忠告を無視したためだと考えた。
(中略) 福井城西北隅にある隅櫓は、苔むして、草が生い茂り、常に閉ざされていて、イッパクの霊が潜んでいる場所とされていた。そして、誰もこの中に入ってはいけないと言われていた。
数年前、藩主の子(松平楷五郎ヵ)が、強くて勇ましい藩士をそこに送り込んで、この陰気な場所を夜の間監視させたという。長い間待っていると、真夜中に美しい女性がこの隅櫓から出てきて、湿って生い茂った城壁に向かった。この時、彼女は「自分はイッパクの霊である」と言い、「もし、自分を見たことを誰かに話したら、お前はすぐに死ぬだろう」と言った。そして、その藩士は、彼女の背中が醜いぬめりのある怪物のものであることを知ることになる。
翌朝、藩士は勇猛果敢に自分の体験を主人に報告した。しかし、その数週間後に彼は死んでしまった。人びとや子どもたちは、彼の死は霊の忠告を無視したためだと考えた。
資料原本と翻刻文
A Daimio’s Government
(前略) One mossy and overgrown part of Fukui Castle, kept always closed, was pointed out to me as the place where the ghost of Ippaku lurked. No one durst enter this. A few years ago, the people said, the prince sent a strong brave man to watch this gloomy nook at night. After long waiting, he saw at midnight, a lovely woman emerge from the tower, and face the damp and overgrown ramparts. Passing him, she said that she was the spirit of Ippaku, but that if he told anyone that he had seen her, he would shortly die. He then perceived her back was that of a hideous, slimy monster. The next morning, with loyal bravery, he related his experiences to his prince. A few weeks afterwards, he died. The common people and children believed that his death was caused by the spirit whose caution he had disregarded.